『焼肉ドラゴン』あらすじ(ネタバレ)と感想

『焼肉ドラゴン』

2018年映画化の「焼肉ドラゴン」は鄭義信氏作による演劇で、映画でも脚本監督を務めます。
自身が日韓両国を祖国と確信できない「棄民であり、マイノリティー」だという自覚を持って制作にあたり、在日は貧乏か大金持ちの両極端という先入観がある韓国で「在日が笑って普通に暮らしていた事を観客に伝えたい」との考えから、『ALWAYS 三丁目の夕日』のアンチテーゼとした作品です。

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『焼肉ドラゴン』登場人物
『焼肉ドラゴン』あらすじ(ネタバレ)
『焼肉ドラゴン』感想

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『焼肉ドラゴン』登場人物

万国博覧会が催された1970(昭和45)年。高度経済成長に浮かれる時代の片隅。

関西の地方都市の一角で、ちいさな焼肉店「焼肉ドラゴン」を営む亭主・龍吉と妻・英順は、静花、梨花、美花の三姉妹と一人息子・時生の6人暮らし。
失くした故郷、戦争で奪われた左腕。つらい過去は決して消えないけれど“たとえ昨日がどんなでも、明日はきっとえぇ日になる”それが龍吉のいつもの口癖だった。
そして店の中は、騒がしい常連客たちでいつも賑わい、ささいなことで、泣いたり笑ったり―。
そんな何が起きても強い絆で結ばれた「焼肉ドラゴン」にも、次第に時代の波が押し寄せてくるのだった―。

金龍吉(父親、56歳):キム・サンホ
第二次世界大戦で左腕を失った韓国人で大阪で焼肉ドラゴンを営む。前妻との2人の娘、再婚相手の連れ子、再婚相手の子供の4人を育てる。
高英順(母親、42歳):イ・ジョンウン
金龍吉の再婚相手。
金静花(長女、35歳):真木よう子 
金龍吉の連れ子で長女。清本哲夫は元彼で哲男とのデートの最中に足を骨折して障害を持つ
金梨花(次女、33歳):井上真央
金龍吉の連れ子で次女。清本哲夫は結婚するが静香のことでモヤモヤする
金美花(三女、24歳):桜庭ななみ
高英順の連れ子。歌手志望でクラブで歌っている。支配人の長谷川と不倫の恋に落ちる。
金時生(長男、15歳):大江晋平
3姉妹の弟。いじめられっ子で失語症になる。
 
清本(李)哲夫(梨花の夫、40歳):大泉洋 
静花の元恋人。次女の梨花と結婚するが仕事につかずうまくいかない
長谷川豊(クラブ支配人、35歳):大谷亮平
既婚者だが三女の美花と不倫の恋をする。
長谷川美根子(長谷川の妻、53歳): 根岸季衣
高原寿美子(美根子の妹・市役所職員、50歳)
呉信吉(常連客、40歳):宇野祥平~哲夫の酒仲間で常連
尹大樹(静花の婚約者、35歳):ハン・ドンギュ~静香に結婚を申し込む
呉日白(信吉の親戚、38歳):イム・ヒチョル~梨花に接近
  

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『焼肉ドラゴン』あらすじ(ネタバレ)


金龍吉は第二次世界大戦に従軍して左腕を失い、四・三事件で故郷の済州島を追われて来日した高英順と再婚します。
龍吉の娘は静花、梨花。英順の娘、美花をそれぞれ連れての再婚で、二人は国有地を不法占拠した集落で焼肉店「焼肉ドラゴン」を開業し、やがて長男の時生が生まれます。


1969年高度成長期、万博が開催される前年の関西。
次女の梨花は李哲夫と結婚パーティーを挙げようとしていたが、区役所の窓口で担当者と哲夫がケンカして婚姻届を提出できなかった。母の英順は「うちの八字(運命)のせいやろうか…」といつものように何でもかんでも八字のせいにするやり取りが続く。
三女の美花は長谷川と怪しい雰囲気。哲男は昔、長女・静香と付き合っていてある事件から別れたが、未だに未練がある。常連の信吉も静香を口説くが秒殺で振られる。美花と哲男も仲直りし、時生はトタン屋根の上から降りてこないが、龍吉は時生の頭を撫でながら、桜がはらはらと散る暮れかかる空を見つめて「こんな日は明日が信じられる。明日はきっとえぇ日になる」と言う。


夏になると国有地から立ち退きの通知を受ける。
龍吉は終戦後の混乱の中で土地を買ったつもりではいる。
有名私立中学に通う時生はいじめで不登校。美花は栄順が時生を甘やかして、歌手志望の自分のプロダクション入りは反対された事で揉めて、栄順に平手打ちされる。様子を見ていた時生はまだトタン屋根に登り、龍吉は「明日は学校に行け」と声をかける。
静花は尹大樹と付き合うようになり、哲男は面白くない。
梨花は入籍しても哲夫が働かないことで大喧嘩する。
喧嘩の最中、静香が哲男をかばう事や、哲男が梨花から静香をかばう事で「静香がビッコになったのは哲男のせいじゃない」とかつて付き合っていた二人の事お互いまだ好きなのではないかと責める。
龍吉は「疲れると、ひとは意地悪い気持ちになりよる」と梨花に言うが「(静香)が古傷であのひとの心、縛っとる」という。
梨花ひとりのところに、常連の日白が落ち込んだ様子で来て、お互いのつらい気持ちが重なり関係を持ってしまう。
偶然その様子を見かけた栄順は何も言わずに奥に引っ込んでしまう。


時生は失語症となり、イジメられケガをして帰る。
哲男は日本の教育を受けさせることに在日なのに矛盾があると言うが、栄順は梨花との仲を心配して働くように言う。
美花は勤め先のクラブの支配人の長谷川の妻が店に乗り込み、二人の不倫が明らかになる。
栄順が頭を抱えているところに、梨花が日白に自転車で送られて帰って来た。
哲男も梨花を怪しみ、栄順は奥に引っ込んでしまう。
梨花は息が詰まる、遠くに行きたいと言い、哲男の言う(日本共産党、総連など)すべてに切り捨てられたとの話も聞く気になれない。
哲男は静香に梨花とはもうだめだと言い、静香が哲男とのデート中に足を折った話や、プロポーズを断られた理由を問い、自分の人生は思い通りにならず、心に穴が空いているという。


冬になり、梨花は栄順に離婚したいと言い「そんなにあの男に夢中か」と栄順に言われる。
ついでに美花と長谷川の不倫の事も合わせ許さないと言う。
静花と大樹は婚約したが、龍吉は時生の学校に呼ばれて不在。そこに哲男が現れて静花に一緒に北朝鮮へ帰国事業で移住する事を求める。静花はこれに応じ大樹との婚約は流れてしまう。
中学を留年した時生に対して、それでも学校に通うよう龍吉は説得するが、時生はトタン屋根から飛び降り自殺をしてしまう。


1970年、万博が開かれたこの年、栄順はまだ時生のことで落ち込んでいた。
常連の阿部は立ち退き料で国有地を出ていく事にした。龍吉は出て行く気がないという。
妊娠した美花と結婚するため長谷川は妻と離婚し、龍吉と栄順に結婚の許可をもらいに来た。
栄順は許さないと出て行ってしまうが、龍吉は自分の過去を話し出す。

戦後、静香と梨花と先妻で故郷に帰るつもりが家財道具を積んだ船が沈んで財産全て失くしたこと。それでも故郷に帰るために働き続けたけど、実家の家族、親族、友人は済州島での事件でみんな殺されたこと。その後の朝鮮戦争で先妻が死に、二人娘を抱えた龍吉と村を焼かれた栄順と結婚した。もう帰る村がないから、働いて働いて時生がうまれまた働いた。故郷は近いけど、ものすごく遠い。それがわしの人生…わしの運命。娘らには娘らの人生がある…わしの分も幸せになってほしい…と長谷川によろしうお願いしますと頭を下げるのだった。

哲男は周囲に止められても北朝鮮に行く決心は変わらず、梨花は根性がなく仕事が続かない目白をかばう。
土地の収容に訪れた公務員(長谷川の元妻の姉)に「盗人に追い銭」と言われ、龍吉は公務員をつまみ出し、この土地は自分が買ったものだと主張し、感極まって「戦争でなくした腕を帰せ」「息子を帰せ」と叫ぶ。
栄順は泣き崩れる龍吉を抱き合うように立たせ「うちはまだまだがんばれまっせ。今夜にでも、息子、つくりましょうか」と慰める。


1971年春、ついに店は取り壊される。
栄順は北朝鮮に行く静香を心配し、静香も涙を流す。哲夫は社会主義建設に貢献したら褒美で帰って来れる。というが、周囲は「在日」は北に利用されているだけと言う。哲夫はそれは北も南も同じ「在日」は外交交渉のための手駒にされるのは変わらないという。
梨花は呉日白と韓国へ移住、三女の美花は長谷川と日本でスナックを経営。「約肉ドラゴン」も閉めて一家は離散する。

龍吉と英順はリヤカーに荷物を載せて去り、死んだ時生が屋根の上に現れて「アボジ!オモニ!本当はこの町が大好きだった!」と叫ぶ。
桜の花びらが降ってくる。
龍吉は「故郷と、故郷の家族を捨てたときから、わしらは故郷と家族に見放されてしもた…」「それがおまえの八字で、わしの運命や」
だが舞い始める桜を見て「わしらを祝福してくれとる」「こんな日は、明日が信じられる」と2人はリヤカーを押して去っていく。

『焼肉ドラゴン』感想


参照:Filmarks映画情報 
韓国出身の在日韓国人家族が経営する焼肉ドラゴンを舞台に、日本で奮闘する家族の姿が描かれる。
日韓の歴史的背景や故郷を亡くして帰るに帰れない移民の心境など、重たい事情が様々あるものの、家族はそれでも支え合いながら、笑いながら、怒りながら、泣きながら生きていく。
もしかしたら、登場人物達の全ての行動は理解しきれないかもしれない。
例えば長女の決断などは、現代からするとなんという決断なのだ、と思ったりしてしまうが、当時の時代背景からすると、希望に満ちたものだったのだと考えると、深く考えずにはいられないだろう…
理解までは難しくとも、知る事が大事。それがこの監督が日韓の時代を記録し続ける行動原理なのだろう。
・・・あの街が理想郷であり、あの街に守られていた。だからこそ最後”彼”はあの街が好きと胸を張って言えたのだろう。
焼肉ドラゴンはその象徴であり、中心だった。

参照:Filmarks映画情報   
大阪で万国博覧会が開催された高度経済成長期の真っ只中、その繁栄とは無縁な地方都市の一角で小さな焼肉店を営む在日一家のドラマを通して、時代の流れの中で埋もれた人々の逞しい生き様や家族の強い絆が描かれる。
在日の再婚同士の夫婦・龍吉と英順は、夫々の連れ子である静花、梨花、美花という娘たちと長男・時生の6人暮らし。
世の中が好景気に湧く中、主人公たちを含めて周りに住む在日韓国人は時代の勢いに置き去りにされている。
この焼肉店一家は各々が悩みや葛藤、心の傷を抱えていて、物語が進むに連れ、それが浮き彫りにされる。
当時、私は東京下町の小学生だったこともあるが、通っていた学校の近くに朝鮮学校があったにも拘らず、何一つとして在日韓国人について知らなかったし、知ろうともしなかった。
本作を観て、当時の自分を振り返りながら、彼らが置かれた立場や状況が今になって初めて理解出来たような気がする。
そして、映画で何度か登場する言葉「たとえ昨日がどんなでも、明日はきっとえぇ日になる」を信じて前向きに頑張って生きていた人々の鼓動がスクリーンから伝わってきた。
私たち年代にはバブル経済期よりもはるか昔で朧げな記憶の時代だが、本作で笑いと涙を交えて描かれた在日一家の悲喜劇は、人々の持つバイタリティーや家族の強い繋がりを改めて感じさせてくれる。
 
 
人間は強く強く欲し過ぎたモノはなかなか手に入らないものなのだろうか?
高度成長期の在日韓国人の龍吉はきっと欲望と言えるほどの業はなかった。龍吉が欲するのは家族と故郷という安心できる場所を望んだのでしょう。朝鮮半島が時代の慟哭に分断された時代、その時代の在日韓国人たちは韓国からも、朝鮮からも日本からも持て余される存在だったのでしょう。彼らは流浪の民であり、国有地を占拠し、無秩序な集落の中に故郷を作ろうとしていたがやはり奪われてしまう運命にあったのでした。
考えようによって龍吉は片腕は失くしても命は残り、家財の財産一式失くしても家族は全員助かり、戦争で先妻は死んでも、後妻の栄順と連れ子の美花そして時生が生まれた。失くしても失くしても命だけは取られない龍吉は悪運が強いと言えるのかもしれない。そして焼肉ドラゴンでの喧々諤々とした日々が頭を抱えながらも人生で頂点の幸せだったと言えるのだろう。
娘たちは龍吉の人生を翻弄したそれぞれの国へ旅立ってしまった。どうも明るい未来を感じられない娘たちの未来と自殺した時生を思いながらも、桜が舞い散る季節になると「明日はきっとえぇ日なる」と前向きになれる。辛くとも何度でも立ち直れる力を持てるのが龍吉の運命なのだろう。龍吉の人生にエールを送りたくなるのだった。

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